CASE STUDY
予算不足でもデータ分析を実践するには?! – 費用対効果抜群のコンテスト!
前にも触れたように、自転車泥棒が日常茶飯事のアメリカで、自転車を所有したり利用するのはなかなか厄介だ。鉄格子や鉄柵に頑丈なチェーンでグルグルに施錠しても、タイヤだとかハンドルだとかのパーツを盗まれることもあれば、電動のこぎりでチェーンロックを切られて丸ごと盗まれるのも当たり前。全国統一の防犯登録システムなども確立されてないので、盗まれたパーツや自転車を見つけ出すのもほぼ不可能。とにかく個人所有の自転車を日常的に利用するのが難しい。
そんな市民の悩みに応えるためかどうか、イリノイ州シカゴ市は2013年6月に自転車共有システム「Divvy」なるサービスを導入した。サービス利用の仕組みはこんな感じだ。
- 前もってインターネットまたは電話にて、会員登録を行う。会員体系は2種類あり、毎日通勤などで使いたい人向けの年間会員(75ドル)か、週末の散策・買い物など時々使いたい人向けの24時間会員(7ドル)。
- シカゴ市内約15キロ圏内の至るところに設置された「自転車ドックステーション」に行き、会員登録に伴って事前に渡されたキーまたはコードを使って、自転車をドックから解除して取り出す。
- 利用終了後は、最寄の「自転車ドックステーション」に自転車を戻す。開始時と同じドックステーションに戻さなくてもよく、最寄のどこのステーションに戻してもOK。利用時間の長さ=ドックを離れてからまたドックに戻されるまでの時間の長さに応じて、会員料とは別の時間チャージが後でクレジットカードにチャージされる。
サービス開始当初は、ドックは75ステーション、自転車数750台だったが、約1年強を経た今はドック数約400ステーション、自転車数約3000台にまで拡張している。
さて、今日のお話のミソは、そんなサービスがあって成功してます、ということじゃなくて、ここからが本題だ。
普通、こんな風に新サービスを立ち上げたら、どんな人がどんな風に自分達のサービスを利用してくれているのか、詳しく知りたくなるはず。幸い、事前会員登録制度やらドックの自転車出入り状況やらで、どんな人がいつ、どこからどこまで自転車を使ってるかという生データは逐次貯まっているはずだ。
で、普通だと、こういうデータ分析を行える専門チームを自社内に設けてやらせるか、または高いお金を払ってその分野のコンサルを雇い分析させたりするのが御手前だ。
ただこれは、シカゴ市という行政が提供するインフラで、そういうデータ分析的な人材がそもそも役所内に存在すらしてないだろう。ましてや、慢性的赤字に苦しむシカゴ市が、こんなデータ分析のための特別予算をあてがってもらえるわけもないだろう。
・・・という背景のためかどうか知らないが、Divvyが次に取った行動があまりにも天才すぎてビックリしたのだ。
なんとDivvyは、「データ・チャレンジ」なるコンテストを開催したのだ。どういうことかというと、約8ヶ月近くのデータが貯まった今年2月、過去8か月分の生データファイルを一般公開し、一般市民にデータ分析結果を応募させるよう仕向けたのだ!
コンテストの応募要項には、以下のようなことが書かれている。
『Divvyの延べ利用回数75万回を祝って、今回のコンテストを開催します!特にプログラマー、科学者、デザイナーのみなさん、こぞって御応募ください!
「利用者はどこへ出かけてるのか?」「利用頻度が最も高いドックステーションはどこなのか?」「データから垣間見える利用パターンのようなものはあるのか?」といったような、我々が知りたい答えを綺麗に可視化してみてください!
見事当選された方には、Divvy利用のためのギフトカード、DivvyのTシャツ、自転車用ヘルメット等を差し上げます!』
ウン百万円払ってやっと拝める高尚コンサルの仕事のようなものを、Tシャツやらヘルメットなどのチンケな賞品と交換で入手しようとするこの役人根性、ハンパじゃない。しかも、なりふり構わずに「プログラマー、科学者、デザイナー」を選りすぐって指名してるあたりもスゴイ。データ分析とその結果の表現力に長けてない凡民からあがってくる夏休みの宿題のようなモンは鼻から眼中にすらないようだ。
果たして、約1ヵ月後の今年3月末、入選者が発表された。秀逸なデータ分析結果が数々舞い込んだ様子で、「可視化が一番優れたで賞」「洞察力が一番優れたで賞」「クリエイティビティが一番高いで賞」などいくつかの分野での大賞受賞者を発表した。英語で分かりにくいかもしれないが、データの画像化とかまとめ方の素晴らしさは、恐らくざっと見ただけでも感じ取れるだろう。ちなみに「クリエイティビティが一番高いで賞」は、なんとアメリカ在住の日本人の方が受賞している。
察するに、続々と専門性の高い職業の方々が忙しい中このコンテストに応募したのは、Divvyのシャツやヘルメットが欲しかったからではないだろう。「Divvyデータチャレンジコンテストに入賞」なんて一文をレジュメに加えられたり、Divvyホームページで公表される自分の作品のリンクなどを見せることができたら、これはDivvyデータの可視化に役立つのみならず、応募者の仕事能力を世間または未来の雇用者に可視化するのにも役立つわけだ。役人が考えたとは思えないくらい、コンテスト応募者・主催者双方に奏功する結果で、ナンともお見事なキャンペーンだ。
参考URL
■Divvyホームページ
www.divvybikes.com
■Divvyドックステーションの写真
http://en.wikipedia.org/wiki/Divvy
■Divvy利用の生データ
https://www.divvybikes.com/datachallenge
■コンテスト結果ページ
https://www.divvybikes.com/datachallenge-2014
(著者について)
ステラ・リー。
消費財ブランドメーカーの米国本社に勤務。
この記事をシェアする