本記事では、多角的な事業を展開する大手企業における、統合IDを活用した横断分析プロジェクトの事例をご紹介しています。
複数サービスを跨ぐデータ分析とダッシュボード構築を成功させるためには、流入元(きっかけ)を起点とした分析アプローチと、パフォーマンスと拡張性を両立するデータ構造設計が重要です。
本記事では、複数のサービスを跨いだ横断分析の進め方から、横断分析用ダッシュボード設計の基本知識、そしてデータ構造を決定する際に注意すべきポイントについて詳しく解説しています。
複数サービスを横断した分析やダッシュボード構築について理解を深めたいご担当者の方はぜひ参考にしてください。
企業概要とプロジェクトの背景
多角的な事業展開と統合IDの導入
数十に及ぶ多角的な事業を展開しているとある大手企業では、多様なサービスを利用する顧客を統合的に管理するため、共通の統合IDを導入しています。これは、グループ内の各種サービスを1つのIDで横断的に利用できる仕組みです。
統合IDの活用不足とシナジー創出の壁
統合IDを導入したものの、社内では統合IDの価値が十分に浸透していないという課題を抱えていました。
具体的には、
- 会員の属性や購買行動の解像度が上がっていない
- データを基にしたマーケティング施策のイメージが湧かない
- 結果として、新規会員獲得に対して消極的になっている
といった課題が存在していました。
企業が真に達成したい目標は、グループ全体での売上増加(クロスセルによる会員の総利用額向上)です。この目標に向け、グループ各サービスのデータを可視化し、サービス間のシナジーを強化する戦略の策定が求められていました。
流入元起点の分析と横断ダッシュボードの構築
これらの課題を解決するため、特定サービスからのスモールスタートによる初期分析と、ビジネスインパクトを可視化するダッシュボードの構築プロジェクトを開始しました。
スモールスタートでの初期分析ー特定サービスからの購買行動理解
まずは、特定の1つのサービスを対象に、購買行動を理解するための初期分析を進めました。
分析した主な指標は以下の通りです。
- サービス利用者数および利用者の性別・年代
- サービス利用頻度と利用単価
- 購入商品
- f2転換率(2回以上サービスを利用した会員の割合)
- 統合ID取得サイト(会員が最初に興味を持った流入元サービス)
このように、単一サービスの詳細な利用状況と、統合IDを取得したきっかけを紐解くことから始めていきました。
ビジネスインパクトを可視化するダッシュボードとパイプライン設計
初期分析を進める中で、「会員の総利用額」と「どのサービスでIDを取得したか(流入元)」を軸に、ビジネスインパクトをシンプルに把握したいという要望が挙がりました。
これに応えるため、以下の指標を備えたダッシュボードを構築しました。
- ディメンション: 流入元サービス名
- メジャー: サービスごとの利用金額、利用者数、平均利用金額
また、裏側のデータ基盤としては、各種テーブルを分けたデータパイプラインを構築し、分析用途に応じた柔軟なデータ抽出を可能にしました。

横断分析を支えるデータ構造設計の要点
複数のサービスを横断的に分析する際、最も難易度が高いのはデータ構造の設計です。本プロジェクトでも直面した課題と設計のポイントを解説します。
複数サービス間のデータ統合におけるカラム定義とマスタの選定
サービスごとにデータ構造(プライマリキーやカラムの意味・名称)が異なるため、統合時の共通化ルールを決める必要があります。
- カラム名の統一: 例えば、商品IDが一方のサービスでは「product ID」、もう一方では「item ID」となっている場合、どちらに寄せるか、あるいはユーザーが混乱しない名称をどう定義するかを検討しました。
- 顧客マスタの選定: 各サービスが独自の顧客マスタを持つ一方で、共通の顧客マスタも存在する場合、属性情報に差異が生じることがあります。横断分析においてはどちらを正とするかを決める必要があります。
ダッシュボードのパフォーマンスと拡張性の両立
ダッシュボードのレンダリング速度と、分析観点の拡張性のバランスを取ることも重要です。
- パフォーマンスの優先: KPIカードを大量に並べるダッシュボードを作成する場合には、表示速度を優先し、保持する属性データを最小限に絞り込むことが望ましいです。
- 拡張性への対応: 一方で、分析が進むと他のデータや顧客属性も追加したいといった要望が出ます。そのため、データの追加が容易な柔軟な構造にしておく必要があります。
カスタマージャーニーに基づくクロスセル戦略
データ基盤の構築により、会員がサービス圏に流入したきっかけと、その後のカスタマージャーニーを重視したデータに基づくマーケティング施策の立案が可能になりました。
サービス圏への流入元を起点とした顧客理解
会員に対して未利用のサービスを訴求するには、会員が既に興味を持っている領域と今後興味を持ちそうな領域の両方を把握する必要があります。
今回の分析の結果、どのサービスをきっかけにして共通IDを取得したか(=流入元)が、顧客の興味領域を知るための重要な指標となることがわかりました。
属性と消費行動を掛け合わせた訴求セグメントの策定
流入元、会員属性、実際の消費行動を組み合わせることで、具体的なクロスセル施策のセグメントを策定することができます。流入のきっかけ別に訴求方針の具体例をご紹介します。
- ケース1: エンタメサービス起点
- ケース2: 旅行サービス起点
まとめ:複数サービス横断分析を成功に導くポイント
本プロジェクトを通じて得た、複数サービス横断分析における重要なポイントは以下の通りであると考えられます。
- 流入元起点の分析: サービス間の相互送客の概観を考える際は、会員の流入元(ID取得のきっかけ)を起点に分析を進めることが有効。
- データ構造の事前確認: サービスごとにIDの意味や構造が異なるため、統合前にカラムの意味や名前、どの顧客マスタを正とするかを明確に定義する。
- パフォーマンスと拡張性のバランス: ダッシュボードのデータ量・レンダリング速度と、将来的なデータ追加(拡張性)を考慮した柔軟な基盤設計を行う。
これらの知見は、多角的な事業を展開し、グループ全体での顧客価値最大化を目指す企業にとって、データ活用基盤を構築する際の強力な指針となるはずです。
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