ETHNOGRAPHY

コーヒー – 習慣化する意味と飲まれないこと – 辻中俊樹のエスノグラフィー事例 第3回

A small cup of coffee

本コラムでは、辻中俊樹氏のエスノグラフィー事例を紹介する。前回の記事はこちら

同じように、出産、子育てというライフステージ変化が大きなインパクトを持つことに気づいたことがある。それはコーヒーという嗜好飲料の飲用動向を調べた時のことである。1985年から2010年までの過去25年間の時系列のコーヒー飲用率のデータでは、コーヒーを「よく飲む」という率が、女性ではまず18~24歳の層で85年に比べて6割に減少している。逆に40~59歳は1.7倍、60~70歳では2.4倍に拡大している。それに比して25~39歳ではまったく変わらないのである。コーヒーをよく飲む世代が高齢化しているというのが基本的特徴である。この傾向は男性も全く同様であるが、女性と異なっているのは18~24歳の男性では5割にまで減少、25~39歳でも8割強へと減少している点だ。

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簡単にいえば若い時にコーヒーというものにエントリーする確率が大きく減ったということである。若者のコーヒー離れである。とりわけ男性で強い。通常、25年間にわたりエントリー期にこれだけコーヒー離れを起こしていけば、その余波で25~39歳の時期でもコーヒー離れが加速するはずなのである。男性ではその傾向がみうけられるが、女性ではまったくないといっていいのだ。

つまり、出産、子育てというライフステージの転換が、コーヒーの飲用の習慣化を促しているといえる。エントリー期である若者の時代にコーヒーにあまり多くの接点を持たなかった女性たちが、出産、子育てを機にコーヒー飲用に参入し、習慣化が定着するという流れである。

この流れを考えるにあたって、鍵になっているのが間食シーンである。

まず間食シーンは大変頻度高く登場するのだが、一つのパターンは子供のおやつシーンと連動してでてくるものだ。もう一つは子供の間食シーンとはハッキリと連動している訳ではなくママが単独で行なっている喫食行動と思える場面だ。どちらにせよ、1日に2~3回は登場する。この間食シーンの多さは、後の章でも述べるが、シニア層ともまったく共通する生活行動なのである。

子供のおやつシーンは、子供が家にいる限り1日に2回くらいはある。たとえば午前10時頃と午後3時頃である。この時間帯は古来より受けつがれ、あまり変化のしないもののようだ。お昼寝の後におやつを食べるといった生活習慣として定式化したパターンを持ちやすい。先ほどのBさんの生活動線の中には、このパターンが登場する。お昼寝から起きた3時台に「ふかしいも、白湯」であり、「赤ちゃん用せんべい、白湯」といったものだ。これも乳幼児のおやつの定番といえるもので、決して甘い、スナック菓子などを無造作に与えている訳ではない。

そしてこの時にママはホットコーヒー(インスタント)だけを飲んだり、「チョコクッキー、豆乳カフェオレ」という様に、ママはスイーツも食べたりする。「子供がTVを見て機嫌いいうちに、少し甘い物を。これがないと、この後の家事ががんばれません」という心理が働いている。

このパターンは明らかに子供のおやつとタイミングを合わせているという意味で、子供の出産以降にしか出現しなかったシーンだ。子育てという常に切れ目なく連続している生活行動の接続を、スムーズに行なう為の「一区切り」という意味を持っているのだ。このシーンにコーヒーがセットされているということが、子供の出産以降でコーヒー飲用の習慣が定着する大きな背景なのである。

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また、Aさんのパターンでいえば、長女が保育園に行っていて一人のシーンであっても、長女が在宅であっても、午前10時頃にやはり間食シーンが登場する。「コーヒーとメロンパン」、「コーヒーとお菓子(麻布かりんとう、博多通りもん)」、「コーヒーとヨックモック菓子」というように、コーヒー&スイーツというパターンなのである。彼女の場合には午前中の洗濯、掃除といった家事の切れ目に接続詞のようにこのシーンが登場する。

とりあえず「一区切り」をつける瞬間が到来した時に「ホッと一息」という気分で出現する。そして、この瞬間だけがほんの数分かもしれないが、心は「一人」でいることを実感しているのだ。コーヒーには「リラックス」の機能と同時に、「リフレッシュ」させ、次に向けて「ウォームアップ」、「エンカレッジ」させるという複合的な機能価値がある。出産、子育てというライフステージの転換がコーヒーの持つ価値を招き寄せたのだ。

著者情報

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辻中俊樹

東京辻中経営研究所 代表取締役マーケティングプロデューサー
株式会社ユーティル研究顧問

日本能率協会などで雑誌編集者を経て、1982年ネクスト・ネットワークを設立。生活を24時間スケールで補足する「生活カレンダー」方式によるリサーチワークを確立。団塊ジュニアに関する基礎研究をまとめ、「15(イチゴ)世代」というキーワードを世に送り出すなど、その「生活シーン分析」は評価が高い。
団塊世代のみならず、出産期世代からシニアについても造詣が深い。2010年には食のマーケティングに絞った活動を行うために、東京辻中経営研究所を設立。同社代表取締役マーケティングプロデューサー。

また、2012年よりユーティルの研究顧問として調査、分析、コンサルティング活動を行う。その活動の中で「生活動線」などの視点を生みだしている。

近著に「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー出版)など編著書は多数。

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