DATA-SCIENCE

一人当たり医療費

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株式会社ジーリサーチ代表取締役をしております、上野 勉(うえの つとむ)と申します。
統計を中心に数字を扱う専門家として仕事をしてきました。

数字から見る現代社会について不定期にコラムを書いて参ります。

つとむ頑張るので見てや。

[年齢別にみた一人当たり医療費]
日本の国民が医療サービスの消費のために年間に支出した金額を、「国民医療費」という。
厚生労働省の発表では、平成18年(2006年)度で、331,276億円(33兆1276億円)となっている。
ただし、厚生労働省の定義は、「疾病の治療」となっており、したがって、日本の国民医療費には妊娠・分娩や、健康診断等の疾病予防に関する費用は含まれない。

33兆円といえば、よく例えられるとおりパチンコの産業規模とほぼ同額である。
パチンコってそんなに大きかったか?と驚嘆してほしいわけではない。
パチンコの産業規模を単に数字で示すと実体以上に大きく見え[注1]、誤解を与える(misleading)のと同様、医療費の33兆円についても、その構造をよく理解することが正しい議論の前提になるのだ。

表1-1 国民所得と国民医療費の年次推移

表1-1 国民所得と国民医療費の年次推移

国民医療費の年度別の推移は表1-1のとおりであり、その中でも国民所得に対する比率(国民所得比)は、近年大幅に増えている。
簡単に言うと、国民が稼ぐ収入よりも、医療への支出の伸びが大きいのである。医療費総額は、平成18年度を起点に、

・30年前=>昭和51年度(1976年)と比べて約25.5兆円
・20年前=>昭和61年度(1986年)と比べて約16.1兆円
・10年前=>平成8年度(1996年)と比べて約4.7兆円

増幅している。これを伸長率で示すと、

・30年前=>昭和51年度(1976年)と比べて約4.32倍
・20年前=>昭和61年度(1986年)と比べて約1.94倍
・10年前=>平成8年度(1996年)と比べて約1.16倍

になる。

その間、日本の人口も一人あたり所得(物価水準と言い換えてもよい)も増えている。
もちろん、高齢化も進んだ。
仮に、日本の人口増と経済発展による物価高だけが原因だとしたら、国民所得比はここまで大きくならない。
つまり、高齢化により人口の構成比が大きく変化し、一人当たりが稼ぐ金額に比べて、一人当たりの負担する医療費が増えすぎたのである。

そこで、検討すべき尺度が「一人当たり医療費」である。

平成18年度の国民一人あたりの平均医療費は、25.9万千円。
その国民一人当たりの医療費を年代別に示したのが、表1-2である。

表1-2 年齢階級別国民医療費

表1-2 年齢階級別国民医療費

65歳以上の一人あたり医療費は、64.3万円。
実に、65歳未満の4倍に相当するのである。

[医療費増大のシミュレーション]
ここで20年前と比較してみよう。

当時(1986年)の65歳以上の人口は約1割、国民医療費は17兆円である。
ここから、急速な高齢化が進み、2006年には65歳以上人口は約2割に達し、国民医療費は33兆円になった。

先のとおり、65歳以上の平均医療費は65歳未満の4倍に相当するという構造が同じだとして、20年前の医療費を、

(0.1*4)+(0.9*1)=1.3」

とすると、現在の医療費は、

(0.2*4)+(0.8*1)=1.8

になる。

つまり、20年前にくらべて医療費は1.8/1.3≒1.38倍分がいわゆる「高齢化」による(ざくっとした)高騰分になる。

金額に換算して、17兆円 ⇒ 23.5兆円になる。

また、「物価変動」分を考慮すると、当時(1986年)の国民一人当たりの所得が約220万円、2006年が約292万円で、220/292≒1.33倍。合算すると、1.38*1.33≒1.835倍。

こちらも金額に換算して、17兆円 ⇒ 31.2兆円になり、これだけで、対1986年比(1.94倍)の95%は説明できることになる。

さらに、「医療技術の進歩」や「新薬の開発」などが加わり、国民所得の伸び以上に、国民医療費が増大するというしくみになっている。

医療経済学では、この「高齢化」による影響と「診療報酬改訂」の影響を取り除いた増加を「自然増」[注2]と呼び、日本だけでなく先進諸国のいずれもが抱える共通な問題だとしている。

しかし、「自然増」や「高齢化」を抑えることはとても困難で、この観点から「高齢者医療制度」「特定検診・特定保健指導」「混合診療の解禁」などが議論されている。

※今回の分析の元になっている「国民医療費、国民一人当たり医療費及び国民所得割合の年次推移」のデータをこちらにアップしています。ご自由にご利用ください。
※ファイル名:20140225_medical-expenses.csv(4KB)

[注1] ギャンブル産業は「賭け事」であるために顧客一人が一度に使う金額が大きく、金額面での産業規模が実体以上に大きく感じられることになる。
さらに、パチンコ産業の場合、30兆円というのはあくまで貸玉料の合計が30兆円であるにしか過ぎず、8割以上は払い戻されて顧客の手に戻るので、産業のもたらす付加価値としては5、6兆円ぐらいの規模にしかならない。
一方、自動車産業では「原材料→素材→部品→製品」の順に、町工場なりアセンブラーの工場なりで付加価値がつけられて百万円以上する車になり、自動車の総売上の大部分が自動車産業による付加価値と考えることができる。
一般的に産業の多くは後者に属しており、産業比較において、何の目的もなくパチンコ産業を持ち出しているということは、その比較自体が恣意的で不適切なものである。
ちなみに、自動車産業45兆円, 外食産業30兆円, 通信業20兆円, 広告業5兆円であり、身近な感覚でいういと、国民医療費は外食産業程度というのが妥当。

[注2] 一般に、「自然増」とは、一人当たりの医療費の増加のうち、「診療報酬改訂」の影響と「高齢化の影響を取り除いた残り(「人口増」「技術進歩」「新薬開発」など」として定義される。
加えて、医療費の増加要因を定量的に検討するためには、名目医療費ではなく、「物価変動」を除去した実質医療費を対象に分析する必要がある。
正確には、医療価格の変化を「医療価格指数」で捉えることが必要。

(著者について)
上野 勉(うえの つとむ)
株式会社ジーリサーチ代表取締役
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